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一息に話してしまふと、喜作は依然としてさつきのまゝの姿勢で、いかにも気持よささうに、あのごつごつした、年に似合はず毛のうすい頭をむき出しに日にさらし乍ら、遠く河下の方に開けた空と、その下に低く横はつている丘陵地に目を放つていた。
京都で行はれる御即位の大典はもう四五日後に迫つていたのだつた。その日、陛下は黄櫨染はぜぞめの御袍を召されて紫辰殿ししいでんに出御され、大隈首相は衣冠束帯で階前に進み出で万歳をとなへ、全国一斉に称和する予定で、その奉祝の催しでは河原町の各区内がそれぞれ知慧をしぼつていたのである。
「それでは」
本堂と庫裡とをつなぐ板敷の間で、ずば抜けて背のひよろ長い、顔も劣らずに馬面うまづらの、真白な反そつ歯ぱのすぐ目につく男が突立つていた。
「なにしろ、迷ふんだな」
かういふことになると、彼の話振りには一種の無邪気さが現れて釆る。
「それから、あれだが、今までよう訊かなんだが、――あれは、どうしたもんかの、大石さんの方は?」
だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。
「何分ごらんの通りの未熟者でして――」
「すみましたよ。さあ。何でもありませんなあ。ぢき起きられますよ。ごく軽いんですからね」
「なんだ、さつぱり判らんぞう」
これがこの小さな字である。
「いや、人目がなきあそれどころぢや済まんでせう」